作品に、なぜガンバが使われたのか?

バロック時代の声楽曲におけるガンバの意味

ここでは、ガンバを扱った曲について、そして

なぜガンバという楽器を曲に選んだのかを探りたい。

特にBuxtehudeに焦点を合わせてみてみたい。


(2010年卒業論文からの抜粋)

 

 


Kieler Schriften zum MW. Eva Linfield , s.123

1.声楽曲の中のガンバ曲

17世紀中ごろすでにドイツ以外の国、イタリアや、イギリスではガンバの存在は消えつつあり、その代わりにヴァイオリン属に変わりつつある時代にあった。

しかし、あえてその時代ドイツでは、まだガンバの存在が色濃くあり、特に、Buxtehude

が、ガンバの曲を意図的に取り扱った可能性がある。

130曲の声楽曲のうち、ガンバの曲は、

“Ad cor“ Kantate aus dem Zyklus „Membra Jesu nostri“,BuxWV 75

“Laudate pueri,Dominum“,BuxWV69

“Fürwahr,er trag unsere Krankheit“,BuxWV 31

“Herr,ich lasse dich nicht“,BuxWV 36

“Auf,Saiten,auf! Lasst euren Schall erklingen!“,BuxWV 115

“Jubilate domino“

その他のガンバの編成曲

 

„Herzlich lieb hab ich dich,o Herr“,BuxWV 41

“Jesu,meiner Freuden Meister“ BuxWV 61

“Nimm von uns Herr, du treuer Gott „BuxWV78

“O clemens,o mitis,o coelestis Pater“, BuxWV 8

 

 ヴィオラ・ダ・ガンバを独奏楽器として扱った作品の事例として、『全地よ、主に向かいて喜びの声をあげよ(Jubilate Domino)』(BuxWV64)譜例5参照。当時ドイツの各都市は、さまざまな祝祭や行事で音楽を奏する職業音楽家(Ratsmusikant)を雇っており、リューベックでも、ヴィオラ・ダ・ガンバ等の名手ペーター・グレッケが聖マリア教会における音楽の演奏に参加していた。

 

2.マッテゾンのガンバに対する取り扱い                                                                                                   

マッテゾンは、ガンバの響きについて;

それは新しいオーケストラ対して、“ザワザワ”とした響きであり、また“美しくデリケートな楽器である”と述べている。そのような内向的で、控え目な響きの特別なガンバの持ち味を、ブクステフーデの曲の中に取り込ませたかったのだろう。

 

3.ガンバの由来

それでは、このようなガンバの編成の由来はどこからだろうか。

伝統的なガンバコンソートの作曲法は2通りある。

 

―イギリスのガンバコンソートからの伝統

―フィレンチェのIntermedienの感情的な弦楽器による伴奏の伝統

 

イタリアの16世紀における”lamento” Florentinischのオペラ、

また、宗教的なラメントの(ルター派)キャラクターから影響されている。

ドイツ(17世紀)では、典礼的な受難曲;バッハのマタイ受難曲を思わせるもの。

Eva Linfieldの論文の中で、Buxtehudeの声楽曲におけるガンバの様々な感情についてのタイプについて、こう書かれている。

1.悲哀の感情(ラメント):典礼からの受難としての関連、悲嘆、懇願、埋葬曲。

2.神的な感情:愛情にあふれた愛、潔白さ。

3.眠りや静けさの印象

4.特別なキャラクター。Voxによるキリスト。弦楽器による伴奏で引き立たせる。

 

それでは、どのようにこの伝統が北ドイツ渡ったのか?また、すべての、それとも一部の

彼の作品に当てはまるのだろうか?

17世紀の宗教的な争いや、英国、デンマーク、ドイツの政治的な、また政略結婚などによって文化的な交流が持たれた。重要な点として、イギリスのガンバの作曲家が有名となったことだ。

William Brade(1560-1630)

Thomas Simpson15821625

BradeHamburgで、Simpsonはハイデルベルグの宮廷でガンバ弾きとして任務している。

また、彼らはハンブルグで、7曲の弦楽曲を出版している。それらは、4.5.6声による

ダンスの曲集で、すべての楽器編成で特にガンバの為に書かれている。

これによく似たドイツの作曲もあり、イギリス人から影響されたものと思われる。

そして、それらの作品は、ドイツのガンバアンサンブルに対する親密さや、彼らの    

技術を考慮したものと思われる。

フロレンツのインテルメディオでは、イタリアの初期のオペラで様々な楽器が使われている。中でもガンバは、他の楽器と組み合わせて、神々のシーンなどで使われている。

また、様々な大きさのガンバが3.4種類使用され、Ferdinand I. の結婚式には、ガンバの効果音が使われた。

1.天国のシンフォニア音楽を表現したガンバコンソートによる

2.地獄で悲しい悪魔が歌うシーン。4ポザウネと、リラガンバと、4ガンバによる。

ガンバの表現としては、神々の感情や、ラメントの表現として。

L’Orfeoでも巧みにガンバが使用されている。

 初期イタリアのガンバのアンサンブルの伝統をまとめると、オペラAriannaにあるように、哀しみ、ラメントの場面でガンバを登場させる型にはまっている。

そして、オペラ―ラメントは17世紀半ばには表現力のあるレチタティーボアリアへ変わっていくのだった。

ラメントアリアは、ゆっくりしたテンポで下降形のオスティナートバスによるもの。

 

 

Monteverdiにおける“Viola ”という記述について

・ほとんどが弦楽器を指す。

・ガンバはViola de gamba ,da braccioと書かれることがある。

 

VivaldiOratrioumの中の“engliche Gamben“には、眠るシーンでガンバが出てくる。

 

Romでの初期のオペラは、Barberini 家族の指導下にあった。

オペラでのガンバの使用は見当たらないが、Francesco Barberiniによるガンバのレッスンの記述はある。

 

ヴェネチアのオペラや、オラトリオは、ブクステフーデの声楽曲隠喩している

 

以上のことから、声楽曲におけるガンバの位置はであり様々な象徴的な意味を持ち、ガンバを様々な感情を表現する為に重要な楽器として取り扱ったことを理解することができる。

4.実践

 (p.415) Kerala J.Snyder

Saiteninstrumente

Buxtehudeの目録の中で、意味深く、少なくとも問題となるは、ヴァイオリンである。

彼の生まれたころの時代は、バロックバイオリンは、クラッシックの形に到達している。

1636年“王の楽器”と呼ばれるヴァイオリン製作家のJacob Stainerは、このころの時代である。Buxtehudeの死後何年かに、Matthesonは、ヴァイオリンについて書いた記述が残っている。6曲を例外にしたら、すべての曲にヴァイオリンが必ず少なくとも1台は入っている。

 

そして、ヴァイオリンとともに出てくるのがヴィオラダガンバ。

残念なことに1706年の御者による記述では、ガンバはこのころにはあまり使われていない

とのことだ。

Buxtehudeは、最低でも1696年まではViolineとガンバによる曲を出版している。

ガンバ製作者のJoachim Tielkeは、1667年に生まれ、1719年ハンブルグで亡くなって

いる。多分、ブクステフーデは、Tielkeのガンバを知っていたに違いないし、彼自身それを演奏して、作曲していたかもしれない。

 

5.ガンバの役割

Buxtehudeの中のビオラダガンバの役割は、大きく分けて4つある。

1.ソナタの中の声楽曲の中で、ガンバは、超絶技巧的なソロ楽器として。

2.Bassの弦楽アンサンブルとして(ビオローネも入る)

3.様々な楽器編成とともに、中間声部として。

4.表題された声部の伴奏として。

 

5.楽器編成

不明な点については、それぞれ、Soprano,Alt,Tenor記号で書かれているとき、

はたしてそれは、バスガンバか、4度上に調弦されたテノールガンバで弾かれていたのかどうか。マッテゾンは、バスガンバでどんな音域も弾くという記述もあり、

Tielkeの楽器もバスガンバが製作されていたとされている。

そうとなれば、当時の北ドイツでは6弦Dのガンバが使われていると言える。

彼の作品の中で唯一、ガンバのソロの曲がある。それもDdurで、最大限に

ガンバの響きを生かした調で書かれているのが印象的である。

(Gunther HellwigsKatalog )16691717の間で、71台のガンバの中、1台は5弦で、4台は7弦。

Marienkircheの明細表には、ViolineViola da gamba の名は記されておらず、

代わりに“TenorGeige”と書かれている。

TenorGeigeは、Viola da braccio,もしくはViolinfamilieであるとも考えられる。

実際、PraetoriusTheatrum Instrumentorumに記されている。

また、Violettaと書かれた楽譜もあり、AltGeige,またはViola da braccioのことを指す。

それは、腕で支えて弾くものである。

また、Matthesonは、“Viola,Violetta,Viola da braccio ,Brazzioは、Violineの大きい

形のもので、調弦が5度低い、a.d.g.c.からなり、中声部を弾く“と記している

 

では、ブクステフーデにおけるViolettaとは何だろうか?

BuxWV31は、Gambe またはViola da braccioを意味している?

BuxWV82では、Diskantinstrumentを示し、ここでは、Sprano記号を使用している。

同じように、Stockholmerの当時の演奏状況として、中声部は、至って様々な楽器で

演奏されていることはあきらかである。